“地元で仕事をするとしたら”、あなたはどんな仕事が思い浮かびますか?

役所、銀行、学校の先生……それらに続いて私が思い浮かんだのが「製造業」でした。それもそのはず。栃木県には4,210の製造業の事業所があり20万6,152人もの人が働いている、全国でも有数の“製造業が経済を支えている”都道府県なのです。
※「栃木県の工業」平成30(2018)年工業統計調査結果報告書より

しかし、その現場の様子は淡々と流れ作業をこなしていくイメージが先行していて、自分の進路の選択肢から外して考えていました。

でも本当にそのイメージは正しいのでしょうか。

これまで知る機会がなかっただけで、私たちの知らない世界が広がっているはず。そう思いながら、特殊鋼・鋼材の加工を行う小山鋼材株式会社にお邪魔してきました。

すると、社内を見学するなかで、ひときわ目を輝かせて働いている若手社員さんを発見。「日々新しい加工技術に挑戦できて、スキルアップしていくことが楽しい」と、活き活きとお話してくれました。

本記事では、小山鋼材で働く社員さんのお話を伺うことで、多くの人が普段なかなか触れるチャンスがないであろう製造業の現場をお伝えしていきます。

長く働ける会社だから、技術向上に集中できる

鯉淵さん、今日はお時間をくださってありがとうございます。社内を見学するなかでひときわ楽しそうにお仕事をされていたのが印象的でした。
まずは、鯉淵さんの業務内容から教えてください

鯉淵祐太さん (小山鋼材株式会社 精機課)
栃木県真岡市出身。宇都宮ビジネス電子専門学校SE養成科を卒業後、新卒で小山鋼材に入社、現在7年目。精機課に配属後、現場を経験したのち、現在は現場の司令塔としてデータ制作を行う。

そう言っていただけて嬉しいです。
私は入社1年目から「精機課」に配属されて、最初の1年間で現場を経験した後、現在は設計室でデータ作成を担当しています。
精機課には8台の工作機械があり、プログラミング制御に従って穴あけや平面削りを行っています。機械を動かすためのプログラムを作成する設計室に異動してからは、毎日およそ10本のプログラムデータを作成しています。

設計室と現場はセットなのよね。鯉淵が設計室でプログラムを作成した結果、はじめて現場の機械が動く。

野沢幸一さん(小山鋼材株式会社 精機課)
栃木県真岡市出身。2004年小山鋼材に入社、現在16年目。精機課に配属後、現場やCADCAMを経験したのち、現在はリーダーとして受注管理、工程管理を行う。

現場で機械を触った経験があると、設計室で設計する際、そのプログラムが現場でどう動くのか想像がしやすい。なので、入社後はまず、現場で機械の動き方や工具の種類を叩き込みます。

精機課・設計室に案内してもらいました。小山鋼材には3つの部署「鋼材課」(材料を切断する)「プレート課」(切った材料を切削加工する)「精機課」(切断・切削加工したものを精密加工する)があり、一年間の現場経験を経た後は、本人の希望や適性ごとに各部署に配属されます。

そもそもの話ですが、鯉淵さんが小山鋼材に入社した理由って?

“長く働けそうな会社だったから”ですね。
僕は技術を磨くことに楽しさを見出すタイプなので、就活当時「できるだけ長く働けそうな会社に行きたい」と考えていました。転職して環境が変わると、技術を磨くこと以外に気を取られてしまうかもしれない。ならばできるだけ転職せず、技術向上に集中できそうな会社への就職を希望していました。
もともと専門学校ではIT企業で働くシステムエンジニアに憧れていましたが、「長く働けそうな業界は、IT業界ではなく製造業界なのかも」と考え、合同説明会で小山鋼材のブースに足を運びました。また合同説明会では離職率の低さと、平均勤続年数は10年ほどだという話を聞き、迷わず入社を決めました。

鯉淵が入社してからもう7年か〜。早いな〜。

私自身、“転職することが普通”のweb業界で働いているので、「あえて長く働ける会社に」派の意見って新鮮で面白いです…!

製造業は現場経験年数が技術向上に直結する業種なので、腰を据えて技術を習得できる環境はありがたいですね。
また入社後は、これまでの経験が認められる実感があることも嬉しかったです。
精機課に配属された理由のひとつが、専門学校で勉強していたプログラミング技術は、工場でのプログラムデータ作成にも活かせる可能性があると見込んでいただいたことでした。
一人ひとりの興味を踏まえた仕事ができる環境と、技術向上に集中できる環境があるから、僕も7年勤続できているのだと思います。

「ゆるい環境」だから「やりたい!」が飛び交う

「一人ひとりの興味を踏まえた仕事ができる」「技術向上に集中できる」環境。鯉淵さんの目の輝きをみると、説得力がありますね。

集中して燃え尽きると「目が死んでるぞ!」とイジられることもありますよ(笑)。

(笑)ちなみに、社員のみなさんの雰囲気はどうでしたか?

「思ったよりも固い会社じゃないんだなあ」とは思いました。
緻密な仕事が求められる職種なので、規律に厳しい社風なのかと思っていましたが、実際の社内は和気あいあいとした雰囲気です。入社当時は「あ、けっこう笑顔溢れる職場なんだな」と驚いたことを覚えています。

確かにうちはみーんな明るいよな。おれも入社するまで、製造業って地味だと思ってた。
小山「鋼材」っつー名前も、重く感じない?オレ、そういうイメージしかなかったから、いざ入社したらびっくりしたぞ。

「鋼材」という堅苦しいイメージとは裏腹に、いい意味で「ゆるい」ですよね。

小山鋼材の「ゆるさ」、具体的にどういうものでしょうか。

とにかく提案がしやすいことですかね。
「現場でこんな工具を導入したい」という提案までのフローって、もっと厳格で複雑なのかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。「これはいけそう!」と思ったら、直接専務に提案したこともありますね。例えば一つの加工に3つの刃物を使っているところを、新たな刃物を導入すると1つの刃物で十分になったり、刃物の摩耗率(消耗して使えなくなるまでの時間)が変わったり。提案して新しい工具を導入できると加工時間の短縮に繋がるので、提案は積極的に行うようにしています。

専務と夜な夜な熱く語っているもんなあ。こないだ2時間くらい話してたのは、新規事業の話だっけ?

はい、新規事業の話です。今後こういう技術が盛り上がってくるからやりたい!とか、専務が大判焼きをやりたいとおっしゃっていたので、金型を作ってこんなイベントに出してみます?とか。自分が次にやりたい技術領域について話したりと、様々ですね。

なるほど!すごく柔軟なカルチャーなのですね。失礼ながら私は製造業の現場って、自主性を持って働けるイメージがなかったのですが、勝手な思い込みだったようですね…。むしろ「やりたい」が飛び交う、明るいイメージになりました!

社員の「やりたいこと」を優先する、社長自身のお人柄もあってこそだと思います。

さっき宮内社長からもその話を伺いました!社員さんたちの「やりたい」を尊重したいという考えをお持ちですよね。

まさに。失敗しても責めずに見守ってくれる社長や社員の存在には助けられています。おそらくみなさん、失敗した本人が一番ショックだと分かっているからこそ、ミスをしてもいつものように笑いかけてくれます。

ちょっとでも手を抜いてのミスだったら、注意するよ。でも、新しいことにチャレンジしてみた結果のミスは全然問題ないと思ってる。仕事は、試してなんぼよ。試さなきゃ、仕事って面白くないもんな。

差し支えなければ、これまでで一番ヒヤッとしたミスをお聞きしたいです。

現場で一番怖かったのは、クレーンで鋼材を吊っている時に、ものをひっかけて50kgの鋼材を落としてしまった時です。

怖すぎ!

 

50,60なんて軽いぞ!重いもので1.5t、鋼材課に来っと、3tとかだな。

自分が現場でミスするならまだしも、自分が作ったプログラムで加工者に怪我をさせてしまうのが一番怖いですよ。現場で大きな音がしたときは、プログラムに問題があったのかと不安になって設計室を飛び出して見に行くこともあります。
自分がミスをしながら成長してきた分、自分がプログラムを作るときはせめて加工者に恐怖を与えないよう細心の注意を払っています。似たようなプログラムを組んでも刃物が違ったりすると、工具の動きも微妙に異なってくるので、ノウハウを蓄積しながらやってくしかないですね。

最初に言っていた、「一つの会社で長く働く方がいい」が納得できました…。経験で修得するものが多すぎますもんね。

会社が違えば扱う工具も異なると思うので、覚え直すのに時間がかかりそうですよね。
とはいえ、7年経験してもまだまだ課題だらけです。
結局、0.01mm単位の正確さに日々向き合う仕事なので、膨大な集中力が必要です。
なので、よっぽどのことがない限り、失敗しても責めずに見守ってくれる環境だと思います。プレッシャーはミスの元ですので、社員の皆さんは仕事を渡す人を信頼して任せてくれているように感じます。

精機課は特に放任主義よ(笑)なにかあった時には駆けつけるけど、基本はあれよろしく〜これよろしく〜だね。技術って、そうやって身につけるものだと思うよ。

働くことが楽しいのは、小山鋼材の環境があってこそ

「提案を歓迎してくれる」「信じて託してくれる」。お話を聞く中で、この2つの要素が、活き活きと働く鯉淵さんを形作っているのだなと感じました。

冒頭に話した「一人ひとりの興味を踏まえた仕事ができる」「技術向上に集中できる」環境。その環境があっても結局、そこに「提案を歓迎してくれる」「信じて託してくれる」社員の皆さんの存在がなければ、仕事をしていてもきっとしんどくなってしまうと思うんです。社員の皆さんに支えられているからこそ、技術を突き詰めて、新しい加工方法(※)や新規事業に挑戦できていると思っています。

※精機課では3種類の加工方法を扱っており、二次元加工、二次元半加工、そして三次元加工に分けられます。経験に応じてステップアップしていきますが、鯉淵さんは今や三次元加工の業務を担当するまで成長しています。

今後はもっと三次元加工の経験を増やしながら、新しい加工方法を試したり、後輩を育成したい。そうすることで売り上げを増やし、技術を伸ばせる環境をくれた小山鋼材に恩返しをしていきたいですしね。

真っ面目だな〜

 

自分の能力がまだまだ追いついていないなと思うことは多々ありますが、やれるとこまでやれる気がするんです。新しいことを試せる環境が、小山鋼材にはありますから。

問題が起こったら、オレが頭下げてやっから(笑)ちくしょう!

 

【編集後記】

鯉淵さんの活き活きとしたまなざしと前向きな姿勢の裏には、彼を支える「後ろ盾」が大きく影響していました。

一人ひとりの興味を踏まえた仕事を任せ、技術向上に集中できる環境。提案を歓迎し、信じて託してくれる社員たちの存在。

「製造業のイメージが湧かない」と訪問した小山鋼材ですが、そこには日々技術を磨き、挑戦し続ける人たちがいました。どこの業界でも、“良い仕事をしようとする姿勢”は共通していることなのかもしれません。ものづくり県である栃木県の製造業を担う方々への敬意が増した取材でした。

お問い合わせ先

小山鋼材株式会社 総務部 大木宛
本社:栃木県小山市大字梁2333-31 梁工業団地内
メール:info@oyama-kozai.com
採用ページ:http://www.oyama-kozai.com/recruit/

制作:小山市 株式会社kaettara
撮影:BremenDesign

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