令和3年度小山市では「女性の活躍×デジタルトランスフォーメーションを推進するまち」を目指し、小山市民とともに対話を重ねている。第1回目のイベントでは誰でもアプリが作成できる開発ツール「MIT App Inventor(MITアップインベンター)」を使うことで広がる可能性を探り、第2回目は実際に小山市の住民の方とともにアプリ開発に挑戦した。第3回目は宇都宮市出身で前つくば市副市長の毛塚幹人氏をゲストに招き、市民とともに行う「まちづくり」と「DX推進」の可能性について探った。
今回第4回目のゲストは、小山市で活動する女性たちを中心に結成した「特定非営利法人おやまワガママLab」の代表理事である荒川留美氏。おやまワガママLabは令和3年9月に結成され、理念に共感した市民が集まり現在約25名の組織となっている。今回のイベントでは活動経緯や想い、将来の展望について語ってくれた。
イベント概要がこちら:
小山市で活動する女性たちを中心に結成したNPOが描く“ワガママなまちづくり”の可能性を考える
子育てを通して自分や家族が住みやすいまちにしたい
荒川氏が行っている活動は多岐に渡っていて、一言ではまとめることが難しい。子育て中の女性たちのチームを立ち上げたことからはじまり、「こどをも地域で育てたい」という想いから活動を発展させている。荒川氏はご自身の活動を「ゆりかごから墓場まで」と表現しており、赤ちゃん、子ども、子育て世代や高齢者世代まで巻き込んだ活動を実践している。自分の強みを生かし、その人らしく生きていけるような人生を歩んでほしいという想いがあるという。
荒川氏自身は東京で生まれ、結婚・出産を機に小山市に移住した。子育てをしながら社会との繋がりを求めるようになり、まずは幼稚園のママ友と少人数でマルシェを開催した。地域住民で作るマルシェを実施できたことがとても楽しいと感じ、ママ友たちで「桜小町MAO」というチーム名をつけて活動を重ねていったという。
その後、子どもを地域で育てたいという想いから、どんどん活動の幅を広げていく。今ではマルシェの企画運営だけでなく、寺子屋、プログラミング教室、ビブリオバトル、子ども劇団などを企画している。地域に根差し、さらに子どもたちが主体的に取り組めるように工夫を凝らしている。
また、海外から留学生を受け入れたり、小山市在住の外国人のサポートをしたり、子どもたちが外へ視点を向けられるプログラムも企画している。小学校の地域コーディネーターや地域住民同士をつなげる婚活イベントも開催しているというから驚きだ。荒川氏はあくまでも、自分に届く地域の人たちの様々な声を形にしているだけだという。
みんなのワガママはチャレンジの種になる
本事業で荒川氏とご縁がはじまったのは、昨年実施したインタビューを依頼したことがきっかけだ。インタビューを通して、ご自身の活動によって地域の方と繋がっていることを実感し、自分にできることがあるのではと団体の設立を決断したという。
「今自分に集まっている市民の声を行政に声を届けられ連携できたら、もっと多くの人が活躍でき、もっとたくさんの人を笑顔にできるかもしれない」と荒川氏は語っていた。それが現実のものとなり、まさに小山市民のやりたいこと、でも諦めてしまっている「ワガママ」を集め、声を可視化しようとしている。
今後の「おやまワガママLab」の事業展望も語ってくれた。子どもを地域全体で育てる事業を加速していきたいこと、また女性の活躍推進、産業・地域づくりの人材育成、そして創業支援まで多岐に渡る。
最近ではこのコロナ禍で、これまでできていた子どもたちの「体験」の機会が少なくなってしまったことに危機感を持ち、中学生向けのオンライン職業体験プログラムを実施している。子どもたちがコロナ禍で多くの人と関わる機会をつくれなくなり、学ぶチャンスが少なくなったように感じたという。コロナだから仕方ないのではなく、できないのならばできる方法を探したいと多くの人に相談した結果、オンラインで実施できるようになったというのだ。
多様な大人との出会いの機会を子どもたちにつくりたいという荒川氏の想いが詰まって、多くの人を動かしている。
「一人ひとりみんな魅力があるし、みんな出番がほしいと思っている。みんなのワガママを集めることが、面白いことができるキッカケになるのではないかと思う。みんなのワガママは新たなチャレンジの種になる」と荒川氏は語る。みんなのワガママをチャレンジに変え、みんなで一歩踏み出してみる。それを見守っていてくれたり、応援してくれたりする荒川氏のようなコミュニティの存在は、市民の拠り所となり心強いものになっているに違いない。
地域課題を解決するための地域コーディネーターの役割
次のトークセッションでは、本事業(女性の活躍×デジタルトランスフォーメーションを推進するまち」関係人口創出事業)に企業版ふるさと納税として寄付をいただいたModis株式会社より代表してイノベーション&キャリア開発本部 未来創造部の末吉廣美氏、そしてモデレータとしてボノ株式会社の谷津孝啓氏を招いて対談した。
数々の自治体や地域とコラボレーションしている谷津氏は、荒川氏の躍動に驚きを隠せない。「行政が頑張っても、地域が起きていないところもある。地域が起きているところは地域にコーディネーターがいる。まさしく小山市は荒川さんがコーディネーターとなって活動している。荒川さんのその嗅覚はどこからくるものなのでしょうか、原動力の内発的動機もぜひ教えてください」と谷津氏。
荒川氏「楽しくしたい!というのがエネルギー。みんな違ってみんな良い、得意なことがある、それをすごーいと見ているのが好きなんです。魅力的な人がまちにいたら、場を作りたくなり、このイベントに良いのではないかと思って企画することもあります。誰かと誰かをつなぐことが好きなんです」。
それはおやまワガママLabを設立してより加速しているようだ。荒川氏はこう続けた。「組織にしたことで市民に認知されて多くの人を巻き込めるようになりました。諦めてしまっていることを受け止めてくれる人がいるまちにしたい、ワガママなまちにしていきたい」。
こういう方がいるエリアは、自治体や市民が積極的に関わりたくなるきっかけになる。企業人として数々の地域に関わる末吉氏もこう述べた。「外から企業だけで呼びかけるのももちろんそうですし、行政が呼びかけるだけでも市民が動くのが難しいと感じています。やはり市民が重要で、地域のコーディネーターがいる地域は元気。そのコーディネーターをやろうという人は少数派なんですよね」。
谷津氏も「まず旗を立てることが大事。そしてそれを外部から見つけられることも大切。まず荒川氏は旗を立てることからやっていらっしゃる」と荒川氏の役割を強調していた。
また荒川氏はチーム作りの重要性も語っていた。「旗揚げはできても実行は一人ではできません。メンバーが集まったからできました。仲間づくり、チーム作りが大切だと思います」
自分はできないけど、これで困ってる!でもやりたい!と自ら発信し、外部との関わり方を求めていく。その巻き込み力で多様な人を惹きつけ、プロジェクトを実行していくことができている荒川氏。
谷津氏は「ワガママなまちづくり、もしかしたら荒川氏が一番のワガママなのでは?」と荒川氏に聞いてみた。
荒川氏も「本当ですね!わたしがワガママの塊なのかもしれません。ワガママは日々何気なく我慢していることや、不満を感じていることです。それをわたしがはき出しています」と述べていた。
ワガママが言える、頼れる女性たちがいるまち
荒川氏自身がワガママを声に出している。だから荒川氏もみんなの声を受け止められるし、地域の方たちも受け止めてくれる荒川氏たちのコミュニティがあると安心するのだろう。
小山市も若い女性が市外へ流出してしまうことが地域の課題として取り上げられているが、市内に留まったり継続的にまちと付き合ったりするためには、地域に頼れるキーパーソンとなる女性がいるかどうかが重要になってくる。荒川氏のようなエネルギーに溢れ、地域ネットワークがあり、みんなを応援してくれるような方の存在は地域にはとても重要に思う。
市民同士こんなことがあると良いよね、できたらいいよね、と言い合える場所があり、それが実行できるリソースがあるというのは、とても大きな市民の活力となる。まさしく地域が起きているということだ。荒川氏のような地域コーディネーターの存在は、地域課題が山積する自治体にとっても大きなヒントになるのではないだろうか。荒川氏や「おやまワガママLab」コーディネーターとしての役割が可視化されることで、小山市は今後選ばれるまちになると思うと楽しみで仕方がない。
荒川氏が運営しているNPO法人おやまワガママLabは毎月3日をワガママの日とし、ワガママ会議という場を開催している。ぜひこちらも興味がある方は参加していただきたい。
■イベントゲスト
荒川 留美 氏
特定非営利法人おやまワガママLab代表理事
桜小町MAO代表
特定非営利法人おやまワガママLab:
ウェブサイト:https://www.oyamawagamamalab.org/
facebookページ:https://www.facebook.com/oyamawagamamalab
Instagram:https://www.instagram.com/oyama_wagamama_lab/
■トークセッションゲスト
末吉 廣美氏
Modis株式会社 イノベーション&キャリア開発本部 未来創造部
Modis株式会社概要:
⼈財サービスのグローバルリーダーである Adecco Group の⼀員で、約 8,400 名のエンジニアとコンサルタントを擁する、国内トップクラス規模のテクノロジーソリューション事業者です。IT とエンジニアリングにおける最先端のテクノロジー領域において、「Tech Consulting」、「Tech Talent Services」、「Tech Academy」の3つのサービスを提供しています。テクノロジーと課題解決⼒を通じてスマートインダストリーの発展に貢献し、個⼈と組織がともに躍動できる社会の実現を⽬指しています。
ウェブサイト:https://www.modis.co.jp
■モデレーター
谷津 孝啓 氏
一般社団法人Society5.0・地方創生推進機構 代表理事
ボノ株式会社 取締役