「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度に」

ー日本政府が掲げたこの目標は今年、目標年次を迎えたが達成はほど遠いようだ。

内閣府の「令和2年版 男女共同参画白書」によると、管理的職業従事者に占める女性の割合は14.8%にとどまる(*1)。世界の諸外国と比較すると、日本における就業者に占める女性の割合(44.5%)は大差ないが、管理的職業従事者に占める女性の割合は極めて低水準である。

そのなかで小山市役所は、令和2年4月1日時点での市役所内における係長以上の管理監督者に占める女性の割合が31.0%、管理職に占める女性の割合が25.0%となっている。平成28年に「第3次男女共同参画基本計画」を策定し、女性の活躍推進に積極的に力を入れてきたまちで、さらにこれから加速させる方針だ。

また、世界中がコロナ禍に追い込まれるようにデジタル化が一気に進んでいる。デジタル化で世界に後れを取ってきた日本だが、官民ともにデジタル化が加速し、テレワークの増加など働き方の変革期にある。

小山市役所でも新庁舎整備に併せたICT活用を積極的に展開し、職員の在宅勤務の拡大を目指す「市職員テレワーク推進計画」を2021年2月に施行する。本年度を含む2024年度までにテレワーク実施者を年間70人まで増やす予定だ。

このような背景の中、小山市では新たな挑戦、「デジタル・トランスフォーメーション(以降、DX)を活用」し、「女性が活躍するまち」として動き出そうとしている。

今回は小山市役所の女性管理職(課長職)である3名に、小山市における女性が活躍できる可能性、そしてDXへの挑戦について話を伺った。

今回お話を伺った女性管理職(課長職)の3名。左から黒川澄子さん(総務部 男女共同参画課)、宮田晃代さん(市民生活部 国保年金課)、福原円さん(保健福祉部 地域包括ケア推進課)。

小山市役所には、女性が活躍できる基盤がある

まずは、小山市役所内の女性の働き方、そして係長以上の管理監督者で女性が多い理由について伺った。

――小山市役所は女性の役職者の割合が高いことに驚きました。小山市役所内の女性活躍に関してどのような印象を持っていますか?

宮田さん:入庁した当時は女性で上の役職に就くことは大変という話を聞いていましたが、当時から働く女性も多く、「あたり前に」女性課長が増えていった印象です。女性の先輩方が多かったので、すぐに悩みを相談できたということはとても良かったですね。

黒川さん:「女性管理職の会」というのが市役所内であり、セミナーや交流会などをよくやっています。今はコロナであまりできていませんが。キャリアのことから家庭のことまで相談できる環境はありがたいですね。

――小山市役所はもともと女性が働く場として基盤が整っていたんですね。女性のそういったコミュニティもあると心強く、ご自身が管理職になるときもイメージしやすいですよね。

福原さん:わたしの職場ももともと女性が多く、入庁後市役所内で初めての女性課長や保健師出身の女性部長も出てきたところでした。悩みはそういう女性の上司に相談することが多かったですね。会議の前など、男性同士は寡黙に始まるのを待っていますが(笑)、女性同士だと雑談も多く、自然と横のネットワークができていました。

――それは大事ですよね。女性ならではのコミュニケーションで、みなさん女性管理職自身のネットワークを作っていかれたんですね。

コロナが転機に。テレワークの導入により、様々な世代が挑戦できる可能性が広がった

次に小山市役所内で今後力を入れていくICT活用について、コロナ禍では実際にどのようにテレワークを行っていたのか、そしてデジタル化の将来性について伺った。

――コロナ禍では、市役所内でも業務はテレワークも行っていたのでしょうか?

宮田さん:緊急事態宣言時は市役所内もテレワークを導入しました。毎日は難しかったのですが、交代で行っていましたね。

――テレワークは初めての試みだったと思います。場所に捉われずに働く可能性についてどう思いましたか?

黒川さん:テレワークのために資料を持ち帰る負担は大きかったですね。職員にアンケートを取ったところ、7割の職員がテレワークは難しいとの回答も出ました。

――なるほど。確かに資料の持ち帰りは難しい問題ですよね。良い面はありましたか?

宮田さん:通常業務である窓口業務は物理的に不可能ですし、個人情報も持ち出しはNGのため不可能な業務もありました。ただ在宅だと電話対応も接客もなく、一つの業務に集中できたことは大きいですね。在宅でできる範囲で、情報分析など集中しなければいけない業務はできて良かったと思います。

福原さん:コロナ以降、IT環境が整ったのは影響が大きいですね。国の会議がオンラインになり、出張に行かなくて良いというのは大きく、負担が減りました。学会もリモート開催となり、今まで出張が難しかった職員も参加できるようになりました。年代問わず、また家庭の状況を問わず参加でき、資質向上の面で良いと思います。学会に参加するには、旅費など自己負担も出てきますが、若い世代にとってはリモートになったことで経済的な負担が軽くなったと感じます。時間とお金の節約ですね。

あとは専門職同士の会議もオンラインでできればと思いますが、双方のオンライン環境やセキュリティの問題でまだ実現が難しい状況です。

――オンライン会議が増えたことで、家庭状況に左右されず多くの方が仕事上働きやすくなった、そして様々なことに挑戦することのハードルが下がったように思います。そういった可能性は小山市役所でも実感されますか?

黒川さん:私自身も全国で開催される会議は参加しやすくなりましたね。子育て、介護世代はどうしても参加しにくかった印象です。また、長時間労働が良しとされている価値観から短時間で生産性を上げる考えに変わった感じがします。

――生産性は課題ですよね。小山市役所内でも短時間で成果を上げる意識が高まっているのでしょうか?

宮田さん:市役所内でも高まっていますね。オンライン会議でだいぶ時間が短縮できています。移動時間がないだけで、時間が作れると実感しました。コロナをきっかけに仕事の仕方が変わったと思います。時間を意識的に作ることができるようになりました。

黒川さん:小山市でワーク・ライフ・バランスが整っている事業者を認定する事業がありまして、事業者との話をする機会が多いのですが、短時間で効率良く働くという社風に転換されています。小山市内の事業者でもワーク・ライフ・バランスが整っていないと若い人が入社しないという話も聞きますね。

――小山市全体で働く環境を整えていく意識があるんですね。テレワークによって確かに労働生産性の観点でより短時間で成果をあげる意識が高まり、効率良く働ける環境になったのだと思います。ただ地域包括ケアの福原さんは職種上、全てをテレワークにするのは難しいですよね。

福原さん:はい、業務上ご家庭への訪問は必要ですので対人業務は残ると思います。他方で今の高齢者はITが弱いという固定概念がありますが、今の70代はLINEもできるし、YouTubeも見ます。職員も発想の転換をしないといけないと思います。職員からもYouTubeを活用したり、アプリも作れたらいいねという話も出ています。デジタル化が加速していく中でも、活用していくところと肝心な人とのつながり方は工夫していく必要があると思いますね。

――デジタルを活用したほうが良いところ、人にしかできないところ、今こそ適切な役割分担を模索するタイミングですね。

テレワークの推進により、様々な世代が挑戦できるフィールドが生まれている。テレワークを導入することで、自ずと今までのコミュニケーションのかたちが変わるため、その変化をどう受けとめ活かしていくかを考える必要がある。デジタル化が進む中で、人とのつながり方を意識してコミュニケーションに注力することは必要不可欠になる。

「女性が活躍する」ためには、身近な人から意識を変えることが重要

女性が多く活躍できる基盤があり、女性同士のコミュニケーションやコミュニティが活発な小山市役所。デジタルも活用しながら、働き続ける上で立ちはだかる課題について伺った。

――テレワークで様々な人が挑戦できる・活躍できるようになってきました。そのような状況の中で、女性が挑戦する・活躍する上での課題は何だと思いますか?

黒川さん:コロナ禍で夫婦共に在宅勤務の場合、お昼ご飯をどっちが作る問題が発生すると世の中ではよく聞きます。結局、妻に家事や育児の負担がかかっているというケースも多いように思います。平常時から身近な人の意識を変えていく必要があるのではないでしょうか。

宮田さん:親の介護の場合、自分の父親世代(80代)は全く家事ができないことも多いんです。我が家では母が寝込むと家が壊滅的。次世代から家事スキルをあげていかないといけないと実感しました。コンビニにお弁当を買いに行くこともスキルのひとつです。

福原さん:管理職の年代になると介護問題も大変さが加わり、Wケア(介護と育児の両方)が増えています。特定健診の受診率向上対策においては、健診費用の無料化やAIを活用した受診勧奨等新しい事業に取り組みました。令和3年度にはさらに健診事業の見直しも予定していますが、在課年数が4年となったため異動もやむを得ないと考えます。

――なるほど。女性が挑戦するためには、仕事環境面だけでなく、家庭面の生活基盤を整えていかないといけないですよね。

実際に、女性がキャリアの壁と感じるのは「家事分担」であることがリンクトイン(LinkedIn)ジャパンの最新の調査で明らかになっている(*2)。女性活躍において変革すべきは組織の中だけでなく、家庭にもあるということだ。実際に内閣府の報告でも、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」に反対する者は6割程度で意識は変わってきているが、実際には妻が「家事・育児・介護」の時間が長く、「家庭を守る」役割を果たしている夫婦がほとんどだという(*1)。

小山市として「女性が活躍する」ための場、きっかけづくりを

女性が活躍する上では、仕事環境だけでなく、家庭も含めその他の環境も整えていく必要がある。そのような中で小山市としてどう対策を取っていくべきだろうか。

――女性の働きやすさ、挑戦する人を支援・推進するために、小山市としてどう関わっていくべきと考えますか?

宮田さん:細かな情報発信が大切だと思います。市民に情報が行き届いているのかな?と疑問を持つこともありますし、早く言ってくれればこんなことも市でお手伝いできるのに……、ということが結構ありました。また高齢になる前からITスキル、LINEやアプリを使えるように促したいですね。

黒川さん:イベントで20~40代の女性と「住みやすい小山市について」座談会を実施しました。そのときに小山市の情報が少ないという声があがりました。こういう制度がほしい、こういうことをしてほしいとの意見もあったのですが、実際に小山市が実施している内容もありました。HPが見づらい等の理由で、市でやっているのに全然市民に伝わっていないんです。小山市の魅力も発信できていないという意見もいただきました。

また、イベントで実感したのは、女性の皆さんが活躍したいという想いがあるのにできていないという現状です。ボランティアも良いですが、継続可能なかたちで利益を上げたいという声が多かったですね。市民からの声が聞けて、小山市が情報を発信でき、行政主導ではなくて市民とともに仕掛けづくりが必要だと思っています。

――座談会での一次情報は大切ですよね。人それぞれが挑戦するきっかけづくりが必要なのだと感じました。また、市役所に意見を言ってもいいと市民が思うこと、その意見を吸い上げてくれる行政の仕組みは重要だと思います。市役所として市民の声を受け付ける機会・仕組みはあるのでしょうか?

黒川さん:市民ポスト、懇談会、メール、フォーラムなどの機会はあります。特に男女共同参画課では女性のやりたいことを後押ししたいと思っています。多言語カフェ作りたい、SNSで発信したい、などの意見がでましたが、市として彼女たちがやりたいことを応援したいと考えています。

宮田さん:様々な世代・立場の意見を聞く必要があると思います。年代によって思っていることと求めることが違うと実感しています。例えば私が参加した集まりでは、駐車場について、子育てをしている若い世代はベビーカーの押しやすさ等を重要視し、駐車場と目的地の距離が離れていることは「お散歩」ととらえるなど、あまり気にしません。でも高齢者、特に車椅子を利用する方は駐車場から近くないとだめですよね。いろんな世代が交流し、自分たちの立場だけでなく、相手の立場が分かる・感じる場が必要だと思います。

――対話がまさに必要ですよね。課題を感じている対象の人たちが話せる場作りというのが重要だと思います。

女性、若者、高齢者など挑戦したいと思っている人に対し、今ある生活の中から挑戦できるきっかけを作ること、まず一歩を踏み出すための支援が重要なのであろう。その推進の方針や想いを小山市として発信すること、市民に伝えることが鍵となる。

DXへの挑戦は、小山市の将来とつながる

新たな挑戦をしたいと思っても一人では実施できない。行政、企業、市民同士など様々なステークホルダーとの連携していく必要があるが、最初の一歩として行政の役割は非常に大きい。小山市にはその基盤が整っているのではないだろうか。最後に小山市のDXへの挑戦について可能性を伺った。

――小山市でDXを推進した場合、働き方が変わることができる方はどんな人たちだと思いますか?

黒川さん:子育て中に限らず、社会に出ることが難しい人たちの選択肢を広げることになるのではないでしょうか。アクティブ高齢者も働けるようになりますよね。ただ事業者とも話しますが、なかなかお願いできる仕事をつくれていないのが現状です。

宮田さん:小山市にはいろんな特技がある人が多いですよね。こんなことが少しできるという人をDXでかけ合わせたら大きなものができるのではと思います。一人だと尻込みしてしまうことも、結び付けられるといいですよね。人はいるし、スキルもある。繋がれれば広がると思います。

福原さん:何らかの治療を受けている方で、フルタイムで勤務するのに不安がある方、また引きこもりや対人コミュニケーションが苦手な方もリモートワークだったら無理ない形で働くことができるのではないでしょうか。

――職員の方が思う可能性が大事だと思います。そして市役所内でもDXの可能性について語る場を作るのが必要だと感じます。小山市としてDX推進で必要なことはなんでしょうか?

福原さん:今までは閉塞感がありましたが、コロナは発想を転換する機会だと思います。どうしても新たな挑戦をする場合は市役所内の合意形成が難しいのですが、そのプロセスを大事に進めていきたいですね。

黒川さん:DXの可能性、将来の話はワクワクしますね。将来性のあるものだと感じます。市役所内でも将来のことを語る場が大事だと実感しました。小山市として市民も巻き込んで、盛り上げていきたいですね。

宮田さん:市民同士のまとまりはできていると思います。市とつなげないと、もったいないですよね。つながれるきっかけを作りたいです。DXについても、若手だけではなく全世代を交えた勉強会もしたいですね。

DXの活用が必要だということは全国で謳われているが、検討する上で重要なのは、「将来どういう姿を目指すのか」というビジョンである。そのビジョンを策定する際には、必ず組織の「意識の変革」が必要となる。各組織・管理者層で危機感や変革意識を共有し、組織全体の変革への姿勢のベースを築くことが重要だ。そうすることでビジョンは多くの人の想いが込められ、どう行動していくべきかという指針にもなる。

小山市では、小山市をフィールドに多様な挑戦が継続的に起こり続ける仕組みをつくるために「女性が活躍するまち」という将来ビジョンを掲げ、そのための「DXの活用」に向けて、まさに動き出そうとしている。VUCAの時代、市民との対話を重視しつつ、常に変革し続ける行政・組織であるために、小山市の新たな挑戦が始まっている。

小山市役所では、小山市のビジョンに共感し、女性活躍とDX推進について連携していく企業・市民の方を募っている。これからの小山市について一緒に考えたい、連携したい企業や市民の方はぜひ問い合わせていただきたい。

本記事は「女性の活躍×デジタルトランスフォーメーションを推進するまち小山市・関係人口創出事業」の一部として制作しております。

2021年1~3月にかけて、小山市をフィールドにした挑戦の可能性について語り合う場を開催し、小山市と連携した持続可能な開発目標(SDGs)の推進に関心のある企業や個人の方々を募集します。

全3回のイベントを予定しており、1回目の概要は以下となります。
・日時:2021(令和3)年1月26日(火曜日)19:30~21:30
・費用:無料
・開催方法:zoom
・主催:小山市/株式会社kaettara
※Web会議ツール「Zoom」を使用して開催します。

イベント詳細は小山市のホームページをご参照ください。
https://www.city.oyama.tochigi.jp/site/iju/234974.html

小山市と連携した持続可能な開発目標(SDGs)の推進に興味のある企業のみなさま、個人のみなさまのご参画をお待ちしております。

編集後記

今回のインタビューを通して、女性管理職の方々が小山市の女性活躍を担う人材であり、先陣を切ってきた存在であることを感じた。そして小山市として女性の挑戦を受け入れたい、応援していきたいという想い、そしてDXを活用して小山市を盛り上げていきたいという想いを伺うことができた。今後小山市が「女性が活躍するまち」、そして「DXの活用」へ挑戦する上で、この想いは関わる全ての人々の支えとなり、そして様々な人が挑戦する第一歩になるだろう。

参考文献

*1:内閣府「令和2年版 男女共同参画白書」

*2:PR TIMES「リンクトイン 、「日本女性の仕事と生活に関する意識調査」を発表

制作

小山市株式会社kaettara