20代の頃は営業マンだった栗原さんと、ウエディングプランナーだった小林さん。前回の記事では、大手企業を辞めたおふたりが、Sunフーズで”手ざわり感のあるビジネス”に挑戦するまでのお話を伺いました。

しかし、お話を聞く中で疑問に残ったことがありました。

Sunフーズが運営する 小山市まちの駅「思季彩館」は、お客さんが思うように集まらなかった創業期を経て、今では地域住民をつなぐコミュニティとして地元住民に愛されています。

小林さんは「地方でのビジネスは信頼関係が命」とおっしゃっていましたが、0から事業を立ち上げるなかで信頼関係を築くのは簡単なことではないはず。「小さなビジネス」が地域住民を巻き込み、人が集まる場所になるまでに、どのような背景があったのでしょうか?

インタビューの後編では、思季彩館のマネージャー・小林さんを中心に、その背景をうかがいます。

地域の人たちの “居場所”を目指す

小林さんを中心に運営されている思季彩館が愛される理由は、店員さんの人柄にあるのかなと思います。前記事では「接客が天職」とおっしゃっていましたが、なにか意識されていることってあるんですか?

小林 千恵さん (Sunフーズ株式会社 まちの駅「思季彩館」マネージャー)
古河市出身。高校を卒業後、憧れで東京の美容専門学校に入学するも、環境が合わず退学。スナック勤務を経た後、東京の空気に疲れ地元にUターン。卒業後は小山の結婚式場でウエディングプランナーとして勤務し系列店中、全国No.1の成績を残すも離婚を機に退職。
縁あってSunフーズに入社し、現在今7年目。まちの駅「思季彩館」マネージャーとして、店舗運営や「まちマルシェ」や「御殿広場ピクニックマルシェ」を手がける。

うーん、今思い返してみると、警戒心を解くことなのかもしれないですね。
ウエディングプランナーとして働いていた頃も、思季彩館で地域の方と接している今も、お客さんに対する姿勢は変わらない気がしますよ。

結婚式をあげるカップルも、地元の店舗に野菜を買いに来る人たちも、同じなんですか……?顧客層も、お客さんの目的も全然違うような気がしてしまいます。

私にとっては同じですよ〜。だって、どちらも警戒心が強いじゃない。まず、ウエディングプランナーとして売り上げを立てていた頃。結婚式のような高額商品を選ぶことは、お客様にとってとても大きな決断。プランナーに対する信頼感がないまま高額のウエディング商品を提案しても、成約しなくて当たり前ですよね。
でも一度、この人に任せてもいいなって思ってもらえれば、ちいさな不安も打ち明けてくれるし、結果的に売り上げもついてきたことを覚えています。まちの直売所に訪れる小山の人も同じ。最初は思季彩館に対して「どんな店かわからない」という不安があるから近寄らない。けど、一度お客さんと仲良くなってしまえば、その人は気づけば常連さんになっていたりするんですよね。

言われてみれば…。「不安があると踏み出さない」という点では、どちらも同じですね。でも、警戒心を解くって難しくないですか?普段からなにか意識されていることはあるのでしょうか。

思季彩館にお客さんが訪れたら、とにかく根掘り葉掘り聞いちゃうかも(笑)。「どこに住んでるんですか」「小山はよく来られるんですか」って。障がい手帳をお持ちのお客さんには「どういう障がいをお持ちなんですか」って。せっかく来てくださったお客さんだから気になるし、やっぱり知ることが大切だと思っていて。気づけばいつの間にか相談し合う仲になっていたりしますね。

私だったらそこまでグイグイ話しかけられないですよ。

だって、重たそうな米を買ってるおばあちゃんを見ると「運べるのかな?」って思うじゃない。家近いのかな?とか、配達したほうがいいかな?とか。で、聞いてみるとやっぱり「運べない」って言ったりするんですよ。お年寄りのお客さんの割合が多い思季彩館だからこそかもしれないけど、気にかけてあげられる人居場所って案外必要なのかもしれませんね。

地域の人たちと日常生活の一コマを共有することで、コミュニティの役割も果たしているんですね。セルフレジでは不可能な役割というか。

それはあるかもしれませんね。ちいさな個人商店だからこそできることだと思ってます。

俺はセルフレジ派。店員とは全く話したくないし、静かに店を回りたい(笑)。

栗原 宏さん (Sunフーズ株式会社 代表取締役 )
栃木市出身。横浜市内の大学卒業後の就職先に首都圏の会社を選ぶも、家族のガンをきっかけにUターン。Uターン後は大手住宅メーカーに勤務。戸建営業マンとして全国No.1の成績・約10年の勤務期間を経て退職し、2008年にSunフーズを起業。

社長ったら~(笑)。でもね、セルフレジみたいに人との関わりを避けてきた人が、年をとってから人とのつながりを求めてうちに来るのでは……とも思っています。特に、小山のような地方都市。東京と比べると圧倒的にコミュニティが少ないから、つながれる場所が少ないんだなって。だから家以外の居場所が必要なんです。よくおしゃべりしに来てくれるおばあちゃんやおじいちゃんを見ていると、そう思います。

地方にこそ、“居場所”が求められているんですね。

そうそう。用があるわけでもないけど、ふら~っと来てくれる人は多いし、みんなが足を運ぶことが日課になるような思季彩館でありたいな、って思ってます。

不安を乗り越えて「一歩踏み出す人」に声をかける

「自分を受け入れて欲しい」気持ちは高齢者だけではなく、若者世代も持つものだと思います。思季彩館には、若い人もよく訪れるのでしょうか?

来ます来ます。隔週で開催している「週末マルシェ」が2年かけて盛り上がってきたことで、若い人が思季彩館に関わるハードルが低くなったのかもしれませんね。昨日はね、週末マルシェから思季彩館に興味を持った学生さんが来てくれたんですよ。大学で地域経済を専攻されていて、「話聞かせてください」って。

学生さんが!

見ず知らずの思季彩館に来るのを決めるのも、きっと不安もあったと思うのよね。

しかも、初見だと入りづらいもんな(笑)。

「おやま市まちの駅 思季彩館」
小山ブランドの販売。地場野菜の販売。地場野菜たっぷりのうどん、地場産トマトを使ったチキントマトカレー、フェアトレード珈琲などの軽食を提供。

店の前でキョロキョロしてたから「どうしたの?」って声をかけたのよ。そしたら熱心に話してくれるいい子だったから、インスタとLINE交換しちゃった(笑)。将来は小山市に住みたいんだって。

インスタとLINE交換まで!

その学生さんみたいに、やりたいことに向けて、一歩踏み出そうとしている人が大好きなんですよ。あるいは、一歩踏み出せなくて人生にキョロキョロしてる人。

それは、なぜでしょうか。

自分がそうだったからかな。私は親の意見に流されて美容学校を志望して、都会に憧れて上京したんだけど、やってみたら自分に合わなくて辞めちゃったんだよね。専門学校辞めてどうしようかなって思っていたら、友達に誘われてスナックで働くことになって。スナックでは天職だ!と思うくらい接客業にハマっちゃって。でも昼夜が逆転する生活がつらくなって、いつしか東京にも疲れて地元に帰ってきたり…。
我ながら、キョロキョロしながら楽しんだ半生だったよ。だからそうやって、自分の道を探そうと頑張っている人に声をかけたくなっちゃうのかもしれませんね。思季彩館って表向きは飲食店だけど、そういう人がいつでも入れるような居場所にしていきたいな。

「将来の夢は駄菓子屋のおばちゃん」と話す小林さん。
「子どもって、おばちゃんに「今日こういうことあったよ」っていうじゃない?
毎日、学校帰りに寄ってなんの警戒心もなくあーだこーだ話してしまう
おばちゃんの包容力ってすごいと思うの。最高の幸せだと思う。」

“これからの人”を応援したい

俺らも一歩踏み出して周りに助けてもらった結果、今があるしな。

ちなみに、Uターンして仕事を探している方がSunフーズに声をかけるのもありなんでしょうか?

ありあり。Uターンとはちょっと違うけど、最近も40代の男性がうちに入社してくれたんですよ。マルシェに遊びにきたときに「ちょっと手伝ってよ〜」って声をかけたのがきっかけで。

すごい!その声かけから入社に繋がったんですね!

そうなんですよ。働き方とかを見直しているタイミングだったみたいで。もしまわりに進路に困っている人とかいたら、うち、来なよって伝えてあげて。基本は来るもの拒まずだから。やってみないとわからないしね。1回仕事してみて、ダメだったらそのときは辞めればいい。無理してやる必要はないしね。

Sunフーズは困っている人、癖がある人に好かれる会社です、と小林さんは笑う。

私も助けてもらってきたから、駆け出しの人を応援したいんです。今売れていなくても全然いい。地元のために頑張っている人とか、Uターンしたてでお金がないとか、人脈がないとか。思季彩館や週末マルシェはそういう、これからの人の役に立っていきたいと思っています。

小山市内の小学校の皆さんよる、クリスマスチャリティーイベントのようす

新しく何か始めたい人にとって、心強い存在ですね。

最後に、うちの新規事業の話もしていい?実は今、地元でチャレンジする人を巻き込める事業をつくりたくて、さつまいもを使った商品開発を企画しているんだよ。

さつまいもですか。

さつまいもって誰でも作れるらしくて。都内からグリーンツーリズムで人を呼ぶこともできれば、障がい者も子どももビジネスに参加できる。作ったさつまいもは思季彩館で売れるし、観光農園とか、収穫祭もできる。なおかつ、生産したさつまいもは取引先の小学校に卸して、食育なんかもできるわけじゃない?他社のビジネスも巻き込めそうだし、最高にいいと思って。

ボランティアではなく、あえてビジネスとして立ち上げるのですね。

なんでもかんでもボランティアやればいいってものじゃないからね。ボランティアはボランティア。ビジネスじゃないと雇用は生まれないし。雇用を生まないと、地域住民のチャレンジの場も作れない。もちろん最初は儲からないかもしれないけれど、”これからの人”を巻き込んで行けばいずれは繁盛するって信じてるんだ。創業当初は数万だったけど、今は1億円以上売り上げている、かつての俺らみたいにね(笑)。

【編集後記】
小山市まちの駅「思季彩館」が人が集う場所になった理由、それは訪れる人を心から歓迎するスタンス、人のチャレンジを応援したいというおふたりの強い想いがあるからなのだと感じました。

地元で新しい場所に足を運ぶ時、もしくは挑戦を始めようとする時、それは大きな不安が伴うことでしょう。そんな人たちが支え合うポジティブな連鎖がこの場所、思季彩館からどんどん生まれてくるに違いありません。

筆者も小山に立ち寄った際は、小林さんいるかな?と覗いてみようと思います。

お問い合わせ先

Sunフーズ株式会社 宮田宛
本社:栃木県小山市駅南町6丁目7-19
メール:sunfoods@bell.ocn.ne.jp
採用ページ:http://sunfoods808.com/
おやま市まちの駅思季彩館:facebookページ

制作:小山市 株式会社kaettara
撮影:BremenDesign

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