「女性の活躍×デジタルトランスフォーメーションを推進するまち」に取り組んでいる栃木県小山市。その一環として開催したイベントの第1回目では、誰でもアプリが作成できる開発ツール「MIT App Inventor(MITアップインベンター)」を使うことで広がる可能性を探り、第2回目は、実際に小山市在住の親子とともに、地域で暮らすお年寄りの困りごとを解決するアプリ開発に挑戦した。

今回、第3回目は宇都宮市出身で、前つくば市副市長の毛塚幹人氏をゲストに招き、市民の皆さんとともに、地域の女性たちとともに共創するまちづくりと、DX推進の可能性について探った。

イベント概要がこちら:
地域で暮らす女性たちと共創する、まちづくりとDXの可能性について考える

これからは市民と行政と築く共創の時代へ

最初に毛塚氏から、つくば市で副市長をされていた時に市民の方々と共創した事例を紹介していただいた。

まずは子育て政策、特に子どもの貧困対策について。つくば市では貧困対策の計画「こども未来プラン」の策定や実施にあたり地域で活動している方々を招き、様々な意見交換の場を設定している。また、市民の方々からアドバイスをいただきながら「みんなの食堂」(つくば版こども食堂)や「青い羽根学習会」を行い、貧困世帯にどうアプローチするかをともに考えていくことができたという。また、今までは市役所の福祉部門や教育委員会、学校側で子どもについての情報が統一されていなかったが、データベースを整備し、縦割りを超えて取り組むことができるようになった。それぞれの部署では把握できなかった課題も情報が一元化されることで、児童を必要な支援につなげられるという。

また、2020年の新型コロナウイルスが感染拡大した初期のつくば市の対応についても共有していただいた。当時政府から学校休校要請が出ていたが、つくば市では休校にしつつ家庭で面倒を見ることが困難な場合など登校が必要な場合には登校可能とした。理由としては保護者が医療従事者である家庭もつくば市には多く医療体制を逼迫させる恐れもあったことや、給食が栄養源になっている経済的に困難を有する家庭もいることなどが挙げられた。当時は随時SNSもチェックし、一方的な情報発信だけでなく市民と双方向性を意識した対応を行ったという。さらに、休校の際にはそれをチャンスとしても捉えた。普段できない教育を子どもたちに提供したいと考え、子どもたちの課題探求学習を地域の研究者たちが無料でオンラインサポートする「こどもクエスチョンオンライン」というプログラムを立ち上げた。また休校に伴い、普段は児童クラブに通っていない児童を児童クラブで受け入れる必要が生じた際は、すでに別分野で取り入れていた電子申請を利用して即対応することができた。今回のような危機対応では早急な対応が求められ、改めて自治体にDXを取り入れる重要性を感じたという。

つくば市の上記の事例から、いかに行政が試行錯誤して市民の声を吸い上げ、政策に活かしてきたかが理解できる。つくば市自身が行政は市民の課題を十分把握することが難しいという課題意識をもとに、定期的にワークショップを行い、学生を含めた市民とアイデア出しを行っているのだ。行政だけで政策を的確に実施することも実際には難しく、市民発の取り組みをサポートしたり、市民間での接点を増やし、普段コラボレーションできていない方とつながれる機会を創出したりしているという。

そして毛塚氏からは市民からは見えづらい、行政がどんな考えのもとどう動いているのかについても説明してくださった。行政側は公平性を担保するため、政策策定や予算編成など意思決定プロセスがどうしても長くなってしまう傾向がある。市民側も行政の特徴的な動きを把握することは官民共創のコミュニティを構築するための第一歩である。双方の意向や動きを考慮しつつ、共創の連携・仕組みづくりを実践していく必要があるという。

地域の声を可視化できる中間支援組織こそが重要

続いて、本事業に協力していただいている小山市在住の荒川留美氏と佐藤晴美氏、そしてモデレータの谷津孝啓氏を交えトークセッションを行った。

まず谷津氏からは小山市に関わる女性は4カテゴリーに分けられるのではと。「小山市にずっと住んでいる女性」、「進学や就職を機に転出した女性」、「進学や就職を機に転入した女性」、「小山市に関心を持っている女性」、それぞれアプローチをしていくことが重要だと述べた。そして女性が活躍できそう、安心して生活でき精神的なハードルが低いエリアは選ばれやすいという。

毛塚氏も「流山市がわかりやすい例。流山市のキャッチコピーは、“母になるなら流山”で、女性をターゲットとしています。家族構成が変わるタイミング、例えば子どもができるとき、結婚するときなどのタイミングで人は居住地を変えやすい」と述べた。

人生の転機となるポイントで移住という選択肢が出てくる。移住促進に向けた多様な取り組みがある自治体は選ばれることができるだろう。課題は何だろうか。

毛塚氏は、もっと市民の声を拾い上げる必要があるという。

「行政の情報源は市民アンケートが多い。実際は転出した女性に聞いたほうが改善できる視点が含まれていると思うのですが、行政のアンケートは一般的に市民に対象が絞られがちです。転出するときこそ声を聞くことが重要だと思います。中高生にとって地域がどう見えているか?女性が働きたいと思う雇用先があるか?なども多岐に渡って聞いていかないといけないと思います」

まさに小山市在住の荒川氏が立ち上げたNPO法人おやまワガママLabはそういった市民の声を集めている。

荒川氏「地域での活動を通して気づいたのは、それぞれ言いたいことがあるということ。ただそういった地域の方々のモヤモヤはちょっとした雑談中で聞けることが多い。会議では、本音が出ないですし、言葉になっていないけれど違和感を持っていることも多いんですよね。和やかに話ができる場が定期的にあると、心の奥底に眠っていたモヤモヤが出てくるのではないでしょうか」

様々な人から気づきを得る場など、声が可視化されることは重要だ。しかし実際に行政単独では拾い上げきれないのが現実だという。

毛塚氏「まさにそのようなモヤモヤしている情報がほしいですね。かしこまって話すと出てこない。実際に行政に困っていることを言える人が少ない。役所に相談に行くことやメールを送ることなどはなかなか気軽にはできないものです。つくば市でも対話をしながら意見交換をしていく場を実験的に始めています。まさに本音が聞けるように新しいコミュニケーションのやり方を考えているのです。しかし行政だけでは難しく、中間支援組織の役割も大きいと思います。行政はそういった組織との連携が重要です」

行政でも市民でもない、第三の場の存在は重要だ。荒川氏が代表理事であるNPO法人おやまワガママLabのような中間支援組織がクッションとして入ることで、声がより可視化される。また中間支援組織があることで市民間のつながりもより活性化されるという。

毛塚氏「つくば市は子ども食堂が10拠点以上あるのですが、おじいちゃんおばあちゃんや大学生まで普段貧困対策に関わっていない人も関わっており、互いの団体間でサポートをし合うなど団体の質も高まっています」

まさにおやまワガママLabが行っていることだ。荒川氏も「多様な多世代が入ることが大切だと思っているので、子育てを中心に多くの人と一緒に関わり合いたいですね」と強調していた。

行政は地域からの信頼を活かし、市民同士をつなぐコーディネーターの役割を

続いて地元企業やDXについて意見交換を行った。小山市には行政や市民活動に関わりたい企業もいるのだろうか。

企業に人材研修を行っている佐藤氏は「潜在的にはあると思いますが、手段や接点がないのが現状です。例えば地域と関わるような研修があれば、社員が会社以外の視点を持てるようになり視野が広がる。会社の中だけでなく地域のネットワークが広がると、会社の質も社員の人生のQOLも上がるのでは」という。

企業が地域に関わっていくことで、行政の取り組みだけでは不足している点、例えばDXもカバーされていく。

毛塚氏「まさしく共創の時代です。DXは全て自分でやる必要はない。普段のコミュニティを超えた連携が大切だと思います。行政も常に分野を超えたつながりを持つように意識し、そして行政ならではの調整力も活かして市民の間をつなげていくことも大切です。行政がどう地域に寄り添うかによって変わっていくのではないでしょうか」

行政の立場を活かしてコーディネーションしていくことができるという点は、今後共創していく上で重要な役割認識となるだろう。そしてこういった取り組みをまずは地域で小さく始めることが重要だ。

毛塚氏「つくば市では“つくばをスタートアップの聖地に”という市民発のアイデアをもとに、市民と起業家支援をまず意見交換から小さく始めました」

荒川氏「おやまワガママLabでもみんなやりたいことを後押ししていきたい。魅力的な人がたくさんいるのは地域の宝です。小さい事業、個人事業主でやっている女性も多い。そういった人たちを後押しできる場所、仕組みをつくりたい」

まさしく必要とされているのは「出番づくり」。地域の課題を体感している市民の多様な声を拾い上げ、まちづくりや政策に活かす機会を増やすことの重要性を改めて感じた。つくば市でも小山市でも、市民がより輝けるような地域となるよう市民と行政との共創するまちづくりの仕組みがまさに始まっている。

荒川氏、佐藤氏が運営しているNPO法人おやまワガママLabは毎月3日をワガママの日とし、ワガママ会議という場を開催している。

ぜひこちらも興味がある方は参加していただきたい。次回は3月3日開催予定。

NPO法人おやまワガママLab
https://www.oyamawagamamalab.org/

ゲスト情報

■イベントゲスト
毛塚 幹人 氏
つくば市前副市長。栃木県宇都宮市出身。東京大学法学部卒業後、2013年に財務省入省。国際局、主税局等を経て財務省を退職し、つくば市副市長に2017年4月就任。2021年3月に退任し、地方自治体の政策立案や職員育成支援の取組を開始。三重県みえDXアドバイザー、栃木県那須塩原市及びさくら市の市政アドバイザーを務める。Forbes JAPAN誌30 UNDER 30(世界を変える30歳未満の30人)選出。1991年2月19日生まれ、30歳。

■トークセッションゲスト
荒川 留美 氏
NPO法人おやまワガママLab代表理事
桜小町MAO代表

佐藤 晴美 氏
株式会社エス・ティライン 代表取締役

■モデレータ
谷津 孝啓 氏
一般社団法人Society5.0・地方創生推進機構 代表理事
ボノ株式会社 取締役

主催:小山市
運営協力・記事制作:株式会社kaettara
問い合わせフォーム:https://forms.gle/S3fj6tyX6GGk52z99